普段の歯磨きで歯周ポケットを気にしながら磨いている方は少ないのではないでしょうか。歯周ポケットとは歯と歯茎の境目にある深い溝のことを言います。CMなどでは耳にしますよね。実はこの歯周ポケットが歯周病や口臭の原因になっているのです。今回は歯周ポケットによって起こることや治療法、清掃法について詳しくお伝えします。
1.歯周ポケットとは
歯周ポケットとは歯周病の始まりです。歯と歯茎の境目の溝がポケットのように深くなってしまったことを言います。歯の周りには歯肉溝という溝があります。この溝は健康な状態の時には歯茎にぴったりくっついていて細菌の侵入を防いでいます。しかし、歯茎に細菌が溜り腫れてくると、この密着が剥がされ、ポケットのような袋状の隙間ができます。これを歯周ポケットといいます。歯周ポケットは歯周病の始まりで深くなると歯の周りの骨が溶け、歯周病の状態が悪いことを示します。
2.歯周ポケットによって起こる5つのこと
2-1.歯周ポケットの中に細菌が溜まる
歯周ポケットは袋状の形をしています。歯ブラシやデンタルフロスでは袋の中まで汚れを掻き出すことができずに、細菌のすみかになってしまいます。そうするとますます歯周ポケットは深くなり、細菌のたまり場になってしまいます。
2-2.歯ぐきが腫れる
歯周ポケット内では細菌と体の免疫力(白血球やマクロファージなど)が戦っています。疲れたり、風邪をひいたり、体の免疫力が落ちてくると歯ぐきが腫れて、痛みを伴います。
2-3.歯周ポケットの周りの骨が溶ける
歯周ポケットには常に細菌がいます。この細菌から骨が感染しないように逃げようとして、自ら溶けていきます。その結果、歯茎が下がったり、歯が揺れたりして、最後には歯の周りの骨が全部溶けてしまい、歯が抜けてしまいます。
2-4.口臭が強くなる
歯周ポケットの中には汚れや細菌、膿などが溜まり続けているため、腐敗臭のような口臭が強くなってきます。
2-5.知覚過敏になる
歯と歯茎の間に隙間ができることによって、歯の根元の象牙質に冷たいものや熱いものが入り込み知覚過敏を引き起こします。
3.歯周ポケットができる原因
3-1.プラークが一番の原因
歯と歯茎の周りにプラーク(細菌の塊)が残っていると歯茎が腫れ、歯周ポケットができます。このプラークが全ての原因であり、プラークがなければ歯周ポケットはできません。歯周ポケットは深くなればなるほど、プラークを取り除くことが難しくなるため、初期の段階でプラークをコントロールして食い止めることが最も効果的な方法です。
3-2.歯ぎしりが歯茎の隙間を作る
歯ぎしりが強い方は歯を揺さぶってしまいます。歯と歯茎に隙間ができて、細菌が侵入し、歯周ポケットを作ります。また、歯に亀裂が入ると、そこからも歯周ポケットが広がります。歯ぎしりの原因はまだ解明されていないため、マウスピースで保護する必要があります。詳しくは「歯ぎしりによって起こる怖い出来事/マウスピースがあなたの歯を守ってくれる」を参考にしてください。
3-3.親知らずは早めに抜歯する
親知らずは横や斜めに生えていることが多く、親知らずの手前の歯に深い歯周ポケットを作ります。20歳前後で抜歯をすれば骨が作られ、歯周ポケットが残ることはありませんが、20代後半になると抜歯をしても歯周ポケットが残ってしまい、その後の管理が必要になります。詳しくは「親知らずが口臭の原因となる5つのメカニズムと3つの対策法」を参考にしてください。
3-4.かぶせ物は精度が高いもの
治療をした後のかぶせ物が合っていないと、細菌のすみかになったり、咬み合わせによってそこだけ強く当たると、歯が揺さぶられて歯茎に隙間ができ、歯周ポケットができてしまいます。しっかりとした治療がなされたかぶせ物を入れると歯周ポケットができにくくなります。詳しくは「セラミックの歯/彼らが銀歯にしない6つの理由」を参考にしてください。
3-5.喫煙は歯茎にダメージを与える
歯周ポケットは細菌と体の免疫力の戦いで負けると深くなります。喫煙は歯茎の毛細血管を収縮するために免疫力が低下し、細菌の活動を手助けする為に歯周ポケットが深くなります。
4.歯周ポケットの改善方法
注意:歯周ポケットを改善するには下がってしまった骨の高さに、歯茎を引き締めて高さを合わせる必要があります。骨の高さは変えることができないため、歯茎を引き締めることによって歯の根元が見えてきます。
4-1.浅い歯周ポケット1~2mmの場合
4-1-1.歯茎を引き締める
歯の根元のプラーク(細菌のかたまり)を残さないように歯ブラシやデンタルフロスなどを使って歯の根元を丁寧に磨きます。2~3週間ほど続けると腫れて、隙間ができていた歯茎が引き締まり、細菌が歯周ポケット内に入り込み難くなってきます。
4-1-2.クリーニングをする
こびり付いてしまった汚れは歯ブラシなどで落ちなくなっています。また、この汚れで細菌が繁殖しやすくなるため落とす必要があります。歯医者の機械的にクリーニングして汚れを付きにくくします。詳しくは「歯医者で行うクリーニングの6つの疑問とセルフクリーニングの4つの手順」を参考にしてください。
4-1-3.歯石を取る
細菌が唾液成分と結びついて、石のように固まった物を歯石と言います。歯石は歯医者で超音波で砕きながらとる必要があります。歯石はざらざらしているため細菌の温床になってしまうため、歯石を取って歯の表面をきれいにすることによって細菌の繁殖する住処をなくします。
4-2.中等度の歯周ポケット3~5mmの場合
奥の歯石を取る
歯周ポケット内でこびり付いてしまった歯石を取ります。この歯石は血液と細菌が固まったもので、歯と強固に付いているため歯医者で3~6回に分けて取っていきます。歯の根っこの形は複雑で歯石を取った後根の面を磨いて再度歯石が付きにくいようにします
4-3.重度の歯周ポケット6~8mm以上
外科処置でポケットを減らす
歯周ポケットが6~8mmあると歯周ポケットの入り口から歯石を取ることができません。目で見て確実に行うため外科的な方法を取ります。麻酔をし、切開を入れ、歯茎を開いて中に隠れている歯石を取ります。また、骨の形を整えたり、人工の骨を入れてポケットを浅くしたりする方法を行います。
4-4.9mm以上の歯周ポケット
抜歯をする
歯の長さは大体10mm程度です。9mm以上ある歯周ポケットは根の先まで到達しているために、改善する可能性がありません。歯のすべてを抜歯するか、一部の根を抜歯するかで、いずれにしても抜歯をしないと他の歯に悪い影響を及ぼしてしまいます。
4-5.外科的な処置ができない方
深い歯周ポケットがあっても全身的なお体の状態で外科的な処置ができない場合もあります。その場合はポケット内を1か月に1回程度、歯医者で洗浄しながら温存療法を行います。
5.歯周ポケットの清掃方法
5-1.自宅でできるのは1~2mmまで
歯ブラシやデンタルフロス等で歯周ポケットの中を清掃できるのは1~2mmまでです。歯の根元のプラークを残さないように弱い力で丁寧に磨いていきます。歯周ポケットは歯の全周にあるため歯と歯の間はデンタルフロスや歯間ブラシで磨く必要があります。よく毛先の細い歯ブラシで歯周ポケットの中まで清掃できるとCMで行っていますが、それでも1~2mmが限界です。
5-2.3mm以上は歯医者で清掃してもらう
歯医者では深い歯周ポケットの汚れを細い超音波の器具を使って清掃します。歯周ポケット内の清掃は3~5mmの人は3か月に1回、5mm以上の人は月に1回行い、これ以上進行しないようにする必要があります。
6.歯茎が下がった時のトラブル
6-1.根面齲蝕(こんめんうしょく)
歯茎が下がると歯の根元の弱い象牙質の部分が出てきます。象牙質はエナメル質よりも軟らかいため虫歯になりやすく、進行も早いのです。放置すると歯が無くなるほど虫歯になったり、抜歯や神経を抜く治療が必要になります。早期の治療とフッ素を使って根元を強化し、予防する必要があります。詳しくは「フッ素塗布が虫歯を予防する効果と自宅でできるフッ素の使い方」を参考にしてください。
6-2.知覚過敏
根の表面の象牙質が露出することで、冷たいものや甘いものに対して敏感に反応する時があります。知覚過敏用の歯磨き粉の使用やフッ素塗布を行って、象牙質表面の神経の細かい穴を封鎖していきます。1,2か月程度で改善することが多いです。詳しくは「知覚過敏の症状チェックと虫歯との違い」を参考にしてください。
6-3.審美性の低下
歯茎が下がると、歯と歯の間に大きな隙間ができたり、歯が長く見えたり、審美的に問題になることがあります。気になる方は、かぶせ物で歯と歯の間のすき間を狭くしたり、部分的なものであれば歯茎を移植する方法で改善することもできます。
7.歯周ポケットの測定方法と評価方法
歯周ポケットは自分で測ることはできません。歯医者で歯科衛生士にポケット探針(たんしん)という器具で測ってもらいます。主に歯周病検査の時に測ってもらうもので、ブラッシング方法を変えたり、歯石を取ることによって、どれくらい改善したかを評価したり、定期検診時に歯周ポケットが深くなっていないかを確認します。 また、歯周ポケット内からの出血があれば現在進行形であり、なければ歯周ポケットの進行がなく安定している状態と評価します。
まとめ
歯周ポケットは歯周病のはじまりです。歯周ポケットを作らない、またできてしまったとしてもメンテナンスで管理していくことができれば、将来自分の歯で美味しい食事を食べ続けることができるはずです。