なぜ歯石を取らなくてはいけないのかと思っている方も多いのではないでしょうか。歯石とは歯の周りについている石のようなものです。歯医者で歯石を取るのは面倒ですよね。しかし、実は歯石はただの石ではなく、そのままにしておけば歯が歯周病で抜けてしまう場合もあるのです。歯石は歯周病の原因である細菌の住みかなのです。今回は歯石がなぜできてしまうのか、そして取らなくてはいけない理由について詳しくお話しします。ぜひ、参考にしてください。
1.歯石とは
お口の中で歯の周りにつく石のようなものです。プラーク(細菌の塊)が唾液の中のカルシウムやリンなどのミネラル成分と結びついて石のように固くなったものを歯石と言います。
1-1.歯石はなぜ取らないといけないのか
歯石自体は石なので悪いものではありません。歯石は軽石のように小さな穴が空ていて、そこを住みかに細菌が繁殖し、毒素を出します。その毒素が歯茎を腫らせたり、歯の周りの骨を溶かす歯周病の原因になります。歯石の中の細菌は歯磨きなどでは取れないので、歯石ごと細菌を取る必要があります。歯周病は糖尿病、心臓病、脳卒中、慢性腎疾患、肺炎、骨粗しょう症、癌および早産などの合併症を伴うことがあります。そのため歯周病を改善することはとても重要なことであります。
下の前歯の裏側に歯石が付いている状態
歯石を取り終わった後の状態
1-2.なぜすぐにプラークが歯石になってしまうのか
歯は食事をする度に表面のミネラル成分であるカルシウムやリンが溶け出して(脱灰・だっかい)しまいますが、唾液の中にあるミネラル成分によって元に戻ります(再石灰化・さいせっかいか)。このように唾液の中には歯が虫歯にならないように、大量のミネラル成分が含まれています。だから、プラークが残っていると48時間で歯石になってしまうのです。
1-3.歯石はいつ取ればいいのか
1-3-1.3ヶ月に1度定期検診時、歯石を取る
ブラシの状態も良く、短い期間で定期的に歯石を取っている方は直ぐに1回で全ての歯石を取ることができます。プラークも少なく、歯茎からの出血も少ないため、歯石も柔らかく、直ぐに取ることができます。
1-3-2.治療の時は歯茎の出血を止めてから歯石は取る
歯石はプラーク、唾液、血液からできています。歯茎が腫れていたり、出血がある状態では原因のプラークと血液が残ったままなので、取ったとしても48時間後にはまたついてしまい意味がありません。詳しくは「危険信号!歯茎からの出血を止める自宅でできる4つの手順と正しい治療法」を参考にしてください。
1-3-3.歯茎から出血があると痛みが出やすい
歯茎から出血があると歯石が血液に隠され、取り残しが増えたり、痛みや、知覚過敏も出やすくなります。歯茎から出血を止める歯の磨き方を教わり実行してから、2週間して歯茎からの出血が止まり、引き締まってから歯石を取った方が痛みが少なくてすみます。
1-4.赤ちゃんの歯石は取った方がいいのか
赤ちゃんの下の前歯の裏に歯石が付くことがあります。この歯石は無理して取る必要はありません。赤ちゃんのお口の中には歯周病菌がいないので、歯石ごと磨いて、あげればいいのです。もちろん、赤ちゃんが協力的で取れるようであれば取ってあげてもいいのです。
2.歯石除去の方法
2-1.歯茎の上の柔らかい歯石を取る歯石除去(スケーリング)
歯石除去は超音波の振動を与えながら歯石を粉砕して除去して行きます。特に歯茎の上の柔らかい歯石は比較的簡単に取れます。歯石はどんなに歯を磨いていても徐々に形成されていき、誰にでもできてしまうものなので、特に問題がなくても定期的に歯科医院を受診して除去してもらう必要があります。
2-2.歯茎の中の硬い歯石を取る歯石除去(ディープスケーリング)
血液を含む歯茎の中にできてしまった黒く硬い歯石は、歯にこびり付いています。歯と歯茎の隙間の歯周ポケット内の歯石は歯周病の原因となるものです。超音波の振動や歯石を取る細い器具を使って取って行きます。この時、歯茎が腫れていたり、出血があると取り残しが増えるため、出血が無い歯茎の状態にしてから、歯石を取る必要があります。歯周病ポケットの深さは4mmまではこのディープスケーリングで対応します。それ以上になると器具が届かないため、外科的な処置が必要になります。
2-3.歯肉剥離掻爬術(しにくはくりそうはじゅつ・フラップ手術)
5mm以上の歯周ポケットの中の歯石を取るために、麻酔をし歯茎に切開を入れて、歯茎を開いて歯石が見える状態にして取り除いていく方法です。歯の根は複雑な形をしており、5mm以上の歯周ポケット内の歯石を取り残さないために行います。また、同時に歯茎の中の骨の形を整えることによって歯周ポケットを浅くする方法も行います。
2-3-1.フラップ手術の時間と金額
保険内で処置が可能で1回に4本程度まとめて行い、金額は3割負担の方で10,000円前後です。処置時間は1時間程度です。
2-3-2.骨を作る処置を同時に行うこともある
歯の周りの骨が極端に減っている場所にはフラップ手術と同時に骨を作る処置を行います。骨を作ることによって深い歯周ポケットがなくなり、歯石が溜まりにくくなります。
3.歯石除去は柔らかい歯石と硬い歯石で回数が違う
3-1.歯茎の上の柔らかい歯石除去は1回で取れる
歯茎の上に出ている歯石で少し黄色で、プラークと唾液によって作られたものです。比較的簡単に取ることができ、歯磨きやデンタルフロスが上手で、3ヶ月から6ヶ月に一度定期的に歯石除去をされている方は1度で全て取ることができます。保険診療で3割負担の方の場合、金額は3,000円前後です。詳しくは「痛くない歯石除去をするための4つの秘訣」を参考にしてください。
3-2.歯茎の中の硬い歯石除去は3~6回かかる
歯茎の中にある歯石でプラーク、唾液に加え血液によって作られたものです。歯石の中に血小板など血液を固める成分が凝縮されるため、硬く歯にこびりつき、赤黒い色をしています。歯に強くこびりついていて、取るのに時間がかかります。磨き残しが多く、デンタルフロスの使用がなく、歯茎から出血している方はこの歯石が多く、歯石を取るのに2〜6回かかります。金額は保険診療で3割負担の方の場合、1回の処置が2,000円~3,000円程度です。
- 歯茎からの出血がなく歯周病が初期の方は2、3回ですみます
- 歯茎から多少出血があり歯周病が中等度の方4,5回+外科処置が必要な場合もあります
- 歯周病が重度の方6回+外科処置が必要な場合もあります
3-3.保険外で1回ですべての歯石を取ることができる
保険外診療であれば全ての歯石を1回で取ることができます。お口の中全体を麻酔をして深い歯石を取っていきます。時間は2時間ほどです。上下合わせて金額は10万~30万円程度です。事前にブラッシングによって歯茎からの出血を減らしておく必要があります。保険診療は手順等全てにおいて決まりがありますので、今のところ保険診療では認められていません。また、2時間お口を開け続けるとが大変です。
4.歯石除去後に起こること
4-1.知覚過敏で歯がしみる
歯茎の中の歯石除去や、フラップ手術をすると急に歯茎が引き締まり歯がしみるようになります。これは歯に歯石が付いていたことによって歯周病が進行し、歯の周りの骨が溶けてしまったことが原因です。歯石を取る前は歯石や汚れで根の周りが覆われていましたが、歯石を取ることによってお口の中に直接、歯の根の部分が露出してしまうため、知覚過敏になります。詳しくは「知覚過敏の症状チェックと虫歯との違い」を参考にしてください。
・対処方法
知覚過敏を起こした歯にはプラークを付けないように丁寧に歯を磨くと唾液中のミネラルが歯の表面を固くしていきます。また、フッ素塗布や知覚過敏用の歯磨き粉を使うと早くシミが止まります。どうしてもシミが取れなくて、痛みが続く場合は神経を取る処置をすることもあります。
4-2.引き締まって歯茎が下がる
深い場所にある歯石を取ると歯茎が引き締まり、下がったように見えます。歯石によって歯の周りの歯茎が腫れたり、骨の周りの骨が溶けてしまっていたので、歯石を取ることによって腫れていた歯茎が引き締まり、歯茎が下がります。
・対処方法
この状態が現在の正常な状態です。この状態を維持するように今後は歯石を溜めないようにします。また、極端に歯茎が下がってしまった部分が気になるようであれば歯茎を移植する方法もあります。
4-3.重度の歯周病の方は歯が揺れる
歯周病が重度の方は歯石を取ると歯が揺れてくることがあります。これは歯に歯石が大量につくことによって、歯石で歯がつながっていたため、歯石を取ることによって一時的に歯周ポケットが開いてしまうことで起こります。
・対処方法
2週間ほど経っても揺れが止まらないようであれが、歯科用の接着剤で固定します。また、被せものを繋げることによって揺れを止める場合もあります。
4-4.3日間は献血をしない
日本赤十字社のHPには「出血を伴う歯科治療(歯石除去を含む)に関しては、抜歯等により口腔内常在菌が血中に移行し、菌血症になる可能性があるので治療後3日間は、献血をご遠慮いただいています。」と記入されています。
・対処方法
赤十字社の指示通り献血はしないでください。お口の中は細菌が多い場所です。歯周病で出血がある方は常に血管を通して、細菌が体の中に入っています。
5.歯石の付きやすい場所
5-1.下の歯の前歯の裏
下の歯の前歯の裏には舌下腺という唾液を作る器官の出口があります。前歯の裏にプラークがあると唾液の成分で直ぐに歯石になってしまうので、歯石が付きやすくなります。その代わりその成分のおかげで歯が溶けても、直ぐに石灰化するので、虫歯にはなりにくい場所です。
5-2.上の歯の奥歯の頬側
上の歯の奥歯の頬側には耳下腺という唾液を作る器官の出口があります。そこにプラークが残ると直ぐに唾液の成分で歯石になってしまいます。
5-3.出血がある歯周ポケットの中
歯石の成分の一つは血液です。歯茎から出血がある方や、歯周ポケット内に出血がある方は血液と唾液とプラークが結びついて歯石になります。この歯石は特に歯周病を悪化させる細菌の住みかを作ります。詳しくは「歯周ポケットは口臭や歯周病の始まり/歯周ポケット改善方法」を参考にしてください。
5-4.噛んでいない歯の表面
歯は噛むことや食べ物が擦れることによって、汚れやプラークが落ちる部分もあります。噛む相手がいない歯や機能してない歯は、歯の表面に歯石が付きやすくなります。
6.歯石の予防
6-1.毎日プラークをしっかり落とす
歯石は唾液、プラーク、血液から出来ています。唾液は体や歯に取って欠かせないものです。しかし、プラークは歯磨きとデンタルフロスを正しい使い方で行えば防ぐことができます。プラークは24時間で作られ、48時間で歯石になります。毎日プラークを残さないブラッシングをマスターすることが歯石予防の方法です。詳しくは「デンタルフロスで虫歯や歯周病を防ぐ方法」を参考にしてください。
6-2.出血のない歯茎を保つ
歯周病で歯茎や歯周ポケット内に出血があるとそれが歯石になっていきます。歯周ポケット内の出血は自分では気づきにくいもので、この出血が歯周病菌の活発度合いも示しています。出血のない健康的な歯茎を維持することで、歯石を予防できます。
6-3.歯の表面をツルツルにする
歯の表面に傷があったり、ざらざらしていると歯石が付きやすくなります。研磨剤の粒が大きな歯磨き粉など使うと歯石が付きやすくなります。お勧めの商品は美白用歯磨き粉のライオンブリリアント・モアなど、歯の表面をツルツルさせる効果のものが有効です。また、歯医者で歯石除去後にリナメルトリートメントを行い歯の表面の傷を修復させると歯石が付きにくくなります。
6-4.きれいな歯並びは歯石も防ぐ
歯石が付きやすい下顎の前歯は、歯並びが悪くなりやすい場所でもあります。歯周病になると歯が動き、特にこの部分は歯が重なり合う場所でもあります。できることなら部分矯正で前歯の歯並びを治すことで歯石が付きにくくなります。
6−5.電動歯ブラシは歯石を防ぐ効果あり
最新の電動歯ブラシは歯石の原因である歯垢を取り除く効果が高いものがあり、電動歯ブラシをうまく使えば手で磨くより歯垢を効率的に落とすことができます。歯のブログが行ったオムロンHT−B315メディクリーンの検証結果→「初めての方に歯のブログが推奨する電動歯ブラシ/オムロン音波式電動歯ブラシHT−B315メディクリーン」
7.歯石は口臭の原因となる
歯石は細菌の住みかになっていて、歯周病の原因です。歯周病になると歯茎の腫れ、出血、口臭などが起こります。特に歯茎の中の歯石は歯周病を悪化させ、強い口臭を引き起こします。まずは、歯石をしっかり取り、その後は再度つかないように定期的に除去して歯周病を予防していく必要があります。詳しくは「歯石を取らないと口臭がきつくなる5つの理由」を参考にしてください。
まとめ
歯石は誰にでもついてしまうものです。そしてそれが歯周病の始まりです。歯石を定期的に取ることが自分の歯でおいしく食事をし続ける秘訣です。