初めての総入れ歯。きちんとご飯が食べられるのか、おしゃべりの途中で落ちてこないか…いろんなことが心配になりますよね。 総入れ歯は部分入れ歯と違ってバネを引っかける歯がないので、上顎に入れ歯を吸盤のように吸い付かせて頬の筋肉で押さえ込み、奥歯でしっかり噛むことで入れ歯を安定させています。総入れ歯は歯肉で支えられていて、食べ物を噛むと歯肉がクッションになって入れ歯が少し沈みます。そのため、一般的に総入れ歯は自分の歯と比べて約30%程度しか噛む力がないと言われています。ですが入れ歯の使い心地の感覚は人それぞれなところもあります。そこで、少しでも快適に総入れ歯を使っていただくためのコツを全て説明します。ぜひ参考にしてみてください。
1.総入れ歯と上手に付き合う6つのポイント
1−1.お口の中をしっかり保湿する
特に上の総入れ歯ですが、お口の中が乾燥していると入れ歯が上あごに吸い付かなくなり、入れ歯が落ちやすくなります。しっかり唾液がでるようにマッサージやお口の中を刺激する動き(食事をとる、お風呂で頬の内側を触ってみる、など)が効果的です。それでも難しければ保湿ジェルを塗ってもよいでしょう。保湿ジェルは適量を指にとってお口に含み、全体になじませることでお口の中を保湿するものです。コンクールマウスジェルという商品は刺激が少なく、お口にやさしいので初めて使う方にもおすすめです。
1−2.食事はなるべく奥歯で噛むように
前歯だけで食べ物を噛む癖があると入れ歯がシーソーのようになって、奥歯の方が浮き上がってしまい、入れ歯が外れる原因になります。奥歯でしっかり噛み合わせることで入れ歯が安定するように作られているので、食事の時には気をつけてみてください。
1−3.入れ歯をしっかり掃除する
入れ歯をしていると入れ歯の裏側と歯肉が触れるところに汚れ(デンチャープラーク)が溜まります。入れ歯の掃除を怠っていると、汚れの中にいる菌が増殖して口内炎を引き起こし、赤くなったりヒリヒリとした痛みがでたりします。毎食後入れ歯用ブラシで汚れを落とし、毎日寝るときに入れ歯用洗浄剤に漬けて、常に清潔にしましょう。
1−4.入れ歯安定剤に頼らない
むやみな安定剤の使用は、入れ歯を支える骨の吸収をすすめ、かえって入れ歯の安定を失う原因になります。安定剤を使わず入れ歯が安定するのであれば使用しない方が望ましいです。気になる方は歯科医に使用すべきか相談してみてください。
1−5.軟らかいものから食べて入れ歯に慣れる
入れ歯を入れたからといって、すぐに何でも食べられるわけではありません。初めての総入れ歯ならなおさらです。最初は軟らかいものから食べて、問題なければ徐々に硬いものにチャレンジしてください。それでも入れ歯で食べられるものには限界があります。小松菜など繊維質なもの、ナッツ類やお寿司で例えるとイカやタコは噛むのが難しくなります。
1−6.お口の中の掃除をする
歯が1本もなくてもお口の中の掃除は必要です。ですが、歯ブラシと歯磨き粉は歯茎を傷つけてしまう可能性があるので、お口の中の掃除専用のスポンジで拭うように掃除をすると効果的です。食べカスがお口の中に残らないように全体的に(舌の表面も忘れずに!)行ってください。洗口液も細菌を減らすのに有効です。アルコール成分の少ない、低刺激のものがおすすめです。
2.総入れ歯が出来上がるまでは4、5回かかる
2−1.治療回数
総入れ歯を作る方は、今比較的大きな部分入れ歯を使っている方が多いでしょう。総入れ歯の治療にあたってまず部分入れ歯を改造して総入れ歯の形にします。総入れ歯を作っている間はこの入れ歯を使っていただくことになります。入れ歯を作り始めてから完成まで4、5回、その後の調整に2回程度かかります。
2−2.費用
保険診療で総入れ歯を作る場合、入れ歯本体の値段・診断料・型取り料などすべて含めて片顎だったら1割負担で5千円〜6千円、3割負担で約1万円になります。上下両方になると1割負担で6千円×2で1万2千円〜1万3千円、3割負担で1万円×2で2万2千円から2万3千円になります。
3.総入れ歯のお手入れ方法
3-1.食事の後は入れ歯を外して洗う
食事の後は入れ歯専用歯ブラシで汚れを落としてください。この時歯磨き粉はつけないようにしてください。歯磨き粉に入っている研磨剤で入れ歯が傷つき、汚れがつきやすくなってしまいます。入れ歯用ブラシは市販ではあまり売っていないので歯科医院で購入するようにしてください。
3-2.寝る時は外してお水につけておく
入れ歯は乾燥に弱い材料でできているので、変形、変色、ひび割れの原因になります。
3-3.入れ歯用洗浄剤を毎日使う
入れ歯は汚れがつきやすく、カビてしまうことがあります。毎日洗浄剤につけて、ブラシで取り切れない見えない汚れをきれいにしましょう。入れ歯洗浄剤は市販のものでかまいません。
4.こんな時どうする?入れ歯のトラブル対策
4—1.入れ歯が割れてしまった
入れ歯を洗面所で洗っていたら、手がすべって落として割れてしまったという方、実は多いのです。この時絶対にやってはいけないのは、自分で接着剤で直すことです。位置がずれたままくっつけてしまうと、元に戻せなくってしまいます。歯医者で直してもらいましょう。また保険のルールで入れ歯を作ってから半年は新しい入れ歯を作れないことになっているので、新しい入れ歯を作りたい場合は半年待ってもらうか、保険外で作る事になります。
4−2.入れ歯がゆるい
作った時はぴったりした入れ歯でも、長く使っているとだんだんゆるくなってきます。これは歯がなくなったことで使われていない骨がやせて、入れ歯と顎が合わなくなっているからです。この場合は歯医者に行って、入れ歯を今の骨の状態に合わせてもらうことをおすすめします。入れ歯安定剤でごまかしてしまうと、かえって骨の吸収を進めてしまうことになります。
4—3.食べ物を食べると痛い
普段は痛まないのに、ごはんを食べると痛くて食べられない。原因としては2つ考えられます。
①歯茎と入れ歯の間に食べカスなどが入ったまま噛んでしまい、歯茎が傷ついた場合です。これは入れ歯と歯茎の間に隙間があるために起こるトラブルなので、調整が必要です。歯医者に行くまではなるべく入れ歯を外して安静にしているとよいでしょう。
②上下の歯の噛み合わせに問題がある場合です。こちらも歯医者での調整が必要です。
4—4.歯茎がヒリヒリして赤くなっている
入れ歯を外すと歯茎が赤く腫れてヒリヒリする…それはカビ菌がお口の中で繁殖している可能性があります。原因は入れ歯と歯茎の間の掃除が行き届かず、汚れが溜まってしまったためです。入れ歯は清潔に保ちましょう。また、お口の中にできてしまったカビに効く薬があります。この薬は市販では手に入れることができないため、歯医者で処方してもらいましょう。
5.それでも入れ歯が不便に感じる方へ
5—1.上あごの厚みが気になる方へ
上あごに分厚い入れ歯があるとどうしても気になってしまう方、多いと思います。保険診療で作る入れ歯はプラスチック製です。プラスチックは割れやすいので強度をだすために分厚く作らなければなりません。この厚みにどうしても慣れない方には金属でできた入れ歯がおすすめです。金属は壊れにくい材料なので、厚さを0.5mm程度まで薄くすることができます。2mmの厚みが必要なプラスチックの3分の1の厚みまで薄くできます。
5−2.もっとごはんをおいしく食べたい方へ
プラスチックは熱を伝えにくいので、総入れ歯をつけると食事の温度を感じにくくなります。熱を伝えやすい金属でできた入れ歯なら食事の温度を素早く歯肉に伝え、より食事を楽しむことができるでしょう。金属でできた入れ歯は保険外診療で15万円〜50万円になります。
5—3.入れ歯のゆるみが気になる方へ
それでも入れ歯のゆるみが気になる、入れ歯がわずかにでもお口のなかで動くのが気になる方にはインプラントオーバーデンチャーがおすすめです。インプラントオーバーデンチャーとはあごに2〜4本インプラント治療を行い、インプラントで総入れ歯を固定します。取り外しなのでお手入れは同じように必要ですが、入れ歯の横揺れや会話や食事中に入れ歯が落ちてくる心配はなくなります。顎の骨の量によってはインプラントができない場合もありますので、まず検査が必要になります。費用は保険外診療で70万円〜150万円です。
5−4.入れ歯は絶対にいや!という方へ
歯がなくなってしまったけど、入れ歯だけは絶対に嫌だという方、実は少なくないのです。その場合はAll-on-4という治療法があります。4本のインプラントを埋め込み、口の中の歯全体を固定式の義歯にすることができるというインプラント治療法です。「オールオンフォー」による治療は、噛む機能と見た目の審美性を回復でき、取り外しの必要はありません。ですが、インプラントが1本でも悪くなってしまうとバランスが崩れて噛みにくくなってしまうので、しっかり定期検診に通っていただく必要があります。費用は保険外診療で200万円〜300万円になります。詳しくは「初めてのインプラント治療ガイド」を参考にしてください。
まとめ
総入れ歯は自分の歯に比べると噛む力はかなり劣ってしまいます。ですが、唾液をしっかりだしたり、噛み方を気をつけるなどのちょっとした工夫で改善できる点は多くあります。総入れ歯の使用にあたって、わからないことがあればいつでも歯医者にきいてみてください。
注意:このページに記載されていることは一般的に起こることです。個人差が有りますので全ての人に起こることではありません。詳しくは歯科医院にてご相談下さい。