あなたは今、舌に違和感やしこりのようなものを感じていたり、口内炎がなかなか治らないなどの症状があり、実は舌癌ではないかと心配しているのではないでしょうか。舌に違和感を感じれば誰でも不安になりますよね。
舌癌は口の中にできる癌の中で最も多くできる癌です。特に男性の50歳以上で喫煙、飲酒が多い方には注意が必要です。舌癌の多くは舌の横側にでき、口内炎と間違えることも多く、口内炎が2週間以上続く場合は癌を疑う必要があります。
舌癌で重要なのは早期に発見することです。早期であれば部分的な切除で済み、回復も早くなります。最近では地域の歯科医師会でも口腔癌検診や歯医者でも癌検診を実施しているところがあります。
今回は舌癌の症状から治療法までお伝えします。ぜひ参考にしてください。
1.舌癌とは
舌癌とは舌にできた悪性腫瘍のことで、口の中に癌ができる方は年間6,000人でその半数以上の55%は舌癌なのです。主に舌の横にでき、舌の上や先にできることは稀です。50歳代から70歳代に多く、男性の方が女性の2倍かかりやすい病気です。
舌は肺癌や胃癌などに比べ、見える臓器なので早期発見しやすい場所なのです。しかし、痛みがなかったり、口内炎などと勘違いをしてしまい、癌が進行してから発見されることも多いのです。
治療は主に切除をすることが多く、放射線や抗がん剤を併用することもあります。舌は食事をしたり、唾を飲み込んだり、人と会話をしたりするための重要な器官です。早期に発見できれば切除する範囲も少なく、機能的な障害も軽くて済むのです。
1−1.癌とは
日本人の癌になる確率は50%、日本人の3人に1人は癌で亡くなります。癌は体が細胞を作る時に同じ細胞を作らなくてはいけないのに、間違った細胞を作ってしまい、それをどんどん作ってしまうことです。通常間違って作られた細胞は免疫細胞によって食べられてしまいます。しかし、免疫細胞によって食べられないくらい増えてしまった部分が癌となるのです。また、癌の転移は間違った情報が血液やリンパの流れに乗って移動し、そこでも間違った組織を作ってしまい、癌となるのです。
1−2.「癌」と「がん」の言葉の使い方
「癌」とは体の表面の上皮からできる癌のことを言います。胃や肺の中にも上皮があり、そこからできる癌のことです。また、「がん」とは上皮からできた癌も含めた全体を示します。例えば肉腫(にくしゅ)や筋腫(きんしゅ)は組織の中からできているものなので「がん」ではありますが、「癌」ではないのです。一般的にはまだひらがなの「がん」という言葉が認識されていないので今回は「癌」という言葉で統一させていただいています。
2.舌癌を疑ってほしい5つの異常と口内炎との比較
2−1.舌の口内炎が2週間以上治らない時は癌を疑う
口内炎は口の中にできる炎症です。一般的なのはアフタ性口内炎で円形の白い潰瘍(かいよう)の周りに赤い部分があります。触ると痛みがあり、10日から2週間程度で治ります。しかし、舌癌は自然に治ることはありません。口内炎らしきものが2週間以上治らない場合は舌癌を疑う必要があります。
2−2.舌の表面に凸凹した潰瘍は癌の可能性がある
口内炎は表面が平らに見え白い部分と赤い部分の境界がはっきりとしています。舌癌の潰瘍表面は凸凹し、白い部分と赤い部分が混在して、口内炎のようなはっきりとした境界はありません。赤や白が入り混じり、灰色に見える部分もあります。
2−3.舌癌の潰瘍はしこりがある
口内炎は触っても周りとの違いはほとんどありません。舌癌は潰瘍の周囲に触るとコリコリと硬さを感じます。これは癌細胞が増殖し、周りの組織よりも硬くなっている状態です。そのため潰瘍の表面は柔らかそうでも、周囲は硬く感じるのです。
2−4.舌癌は出血しやすく、匂いがある場合がある
口内炎は出血や口臭はほとんどありません。しかし、舌癌の潰瘍の表面は出血しやすく、臭く感じる時もあります。潰瘍の表面は周りから栄養を取り込むために多くの血管を作ります。しかし、その血管は弱いために少しの刺激で出血しやすくなっています。また、進行すると組織が死んでしまうこともあり、血の匂いや壊死した部分の匂いで口臭が出ることもあります。
2−5.舌の一部が赤い紅板症は癌化しやすい
口内炎は白い潰瘍部分が中央にあり、周りに赤い炎症部分があります。舌癌になりやすい状態の紅板症(こうばんしょう)は白い部分がなく舌が部分的に赤くなる状態です。紅板症は前癌病変(ぜんがんびょうへん)という正常な組織よりも癌になりやすい状態です。
2−6.舌の一部が白い白板症は癌化することもある
白板症(はくばんしょう)は舌の表面が白くなっている状態で、原因は不明です。紅板症と同じ前癌病変で、癌になる可能性のある状態です。口内炎は触ると痛みがありますが、白板症はほとんど痛みがありません。白板症の治療は経過観察を行う場合と、早めに切除する場合があります。
3.舌癌の治療法
3−1.初期の舌癌は部分的に切除する
初期の舌癌(ステージ1)の場合、最大2cm以下で、転移がない状態のことを言います。多くの場合、部分的に舌を切除する手術が行われます。また、放射線治療を行うこともあります。
3−2.転移している癌はリンパ節も手術で取り除く
舌癌が進行すると顎の下や首にあるリンパ節に癌が転移します。その場合、舌癌の部分と一緒に転移しているリンパ節も一緒に取り除く頚部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)という手術を行います。
3−3.舌を大きく切除した場合は胸や手の皮膚から舌を作る
舌は話す、食べる、呼吸するなど生活する上で重要な器官です。舌癌で舌を大きく切除すると日常生活が難しくなります。そのため舌癌で舌を切除しなくてはいけない場合は切除した部分を胸や手から皮膚を再建する手術を行います。
3−4.放射線や抗がん剤治療を一緒に行う場合もある
舌癌の治療は主に切除治療を行いますが、体の状態や癌の進行状況によって放射線治療や抗がん剤治療を一緒に行うことがあります。または切除治療をせずに放射線治療だけや放射線と抗がん剤を一緒に行うこともあります。
4.初期の癌で発見できれば90%助かる
癌は初期の段階であるステージ1の最大2cm以下で、転移がない状態で発見できれば5年生存率は90%になります。しかし、初期の段階で見つかる癌は23%です。半数以上は癌が2cm以上になってしまったり、リンパ節に転移が認められてから見つかることが多いのです。切除範囲も大きくなってしまいます。そのため検診等で初期の段階で発見することはとても重要なのです。
5.自分で行う舌癌のチェック方法
5−1.舌を大きく前に出し舌の横を見る
鏡に向かって舌を大きく前に出し、左右に動かして舌の色や形、潰瘍の有無などを確認します。舌癌の多くは舌の横にできますが、舌の根元の方も確認してみてください。見えにくい場合は指で舌を持ち上げるようにすると、見える範囲が広がります。
5−2.気になるところを指でつまんでみる
目で見て気になるところがあれば、指でつまんでみてください。周囲に硬さを感じるようであれば舌癌の可能性があります。口内炎であれば硬さを感じることはありません。
5−3.傷や口内炎があれば2週間様子をみる
傷や口内炎のようなものを発見した場合は2週間程度様子をみてください。もし2週間経っても全然改善しないようであれば舌癌の可能性があります。
5−4.顎の下のリンパ腺を触り腫れや痛みがないか確認する
風邪をひくと顎の下あたりのリンパ腺が腫れたり、痛みが出ることがあります。これは免疫細胞が活動している証拠です。舌癌になるとこの免疫細胞が活動するので腫れや痛みがないか確認する必要があります。
6.舌癌と思ったらどこに行けばいいのか
6−1.かかりつけの歯医者で相談してみる
自分で舌癌かなと心配な場合はまずかかりつけの歯医者で相談してみてください。口内炎なのか、入れ歯や被せ物による傷なのか、それとも精密検査が必要なものなのかを判断していただけます。
6−2.口腔外科などの專門医に紹介してもらう
かかりつけの歯医者で舌癌の可能性が疑われた場合は、口腔外科など舌癌を扱える専門病院に紹介してもらいます。口腔外科では精密検査や生検などを行い、舌癌かどうかの確定診断を行います。
6−3.口腔癌検診などを利用する
地域の自治体や歯科医師会などでは口腔癌検診を行っているところもあります。異常が認められれば専門病院に紹介していただけます。
7.舌癌になりやすい生活週間
7−1.喫煙者は7倍も口の中の癌になりやすい
喫煙は口の中にできる癌の中で最も危険度が高い原因の一つです。日本では多くないが「噛みタバコ」などの特殊な喫煙習慣を持つ地域では口の中の癌の発生率が高いことが知られています。喫煙者は非喫煙者に比べ7倍も癌になる確率が高くなります。
7−2.飲酒は6倍も口の中の癌になりやすい
飲酒はアルコール濃度が高いほど危険度が増します。特に、喫煙と飲酒を行う方は、非喫煙者と飲酒に比べ36倍もの危険度が増します。
7−3.虫歯の放置や合わない冠は危険
口の中の慢性的な刺激は口の中の癌になる可能性があります。虫歯の放置や入れ歯、金属冠からの電流、舌を噛む癖など日常的に舌に加わる刺激が癌になる可能性があります。また、このような刺激ができてしまった癌を大きくしたり、転移させたりする可能性があります。
7−4.鉄欠乏性貧血は癌の危険度を上げる
鉄欠乏性貧血(プランマー・ビンソン症候群)は口の中の粘膜を萎縮(いしゅく)させるため口の中の癌の危険度を高くします。また、ビタミンA,B,Cなどが不足しても癌の危険度は上がります。
8.舌癌(約55%)以外の口の中にできる癌
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- 舌の下にできる口腔底癌(こうくうていがん)は14.8%
- 歯茎にできる歯肉癌は13.9%
- 頬の内側にできる頬粘膜癌は9.8%
- 上顎にできる硬口蓋癌(こうこうがいがん)は3.9%
- 唇のほとんどは下唇にできる口唇癌(こうしんがん)は2.6%
資料提供 東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック http://www.ginza-somfs.com/
まとめ
舌癌は肺癌や胃癌、大腸癌などに比べ発症率は決して高くありません。しかし、舌は話す、食べる、飲み込むなど機能的にとても重要な器官なため一部を切除しただけでも感覚が戻るには時間がかかります。そのため早期に発見し治療することが重要になります。少しでも心配なことがあればかかりつけの歯医者で相談し、専門機関への紹介状を書いていただいてください。
おかざき歯科クリニック院長略歴
岡崎 弘典
マロ・クリニック研修オールオンフォーインプラント、ポルトガル・リスボン2010年
イナーキ・ガンボレラ研修審美インプラント、スペイン・サンセバスチャン2012年
ヨーロッパ・オッセオインテグレーション協会 イタリア・ローマ 2014年
ITIワールドシンポジウム スイス・バーゼル2017年
障がい者歯科一次医療機関 https://www.dent-kng.or.jp/iryou/shougai/
神奈川県摂食・嚥下障害歯科医療相談医 https://www.dent-kng.or.jp/iryou/sessyoku/
がん歯科医療連携登録医 https://ganjoho.jp/data/professional/med_info/dental/files/14_kanagawa.pdf
伊豆稲取 村松歯科医院矯正科 主任
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